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「ルパン三世 HVリニューアルマスター版」の出来

7月31日からwowowで放映されている「ルパン三世」をデジタル修復したハイビジョンリニューアルマスター版だが、おおむねあちこちで評判が良いようだ。

2001年に出たDVD版の画質がヒドすぎたということもあって、ルパンファンの間ではかなり好意的に見られてるらしい。
DVD版は放映当時の画質・色調にこだわるあまり、原版は35mmフィルムなのに16mmのポジプリントをとり、それをテレシネしている。
確かにオンエアは16mmポジプリントを前提としていたであろう。しかし、2001年当時の35mmネガ原版の状態がそれ以上悪くなる前に、その時点でできる最善の方法で後世に作品を残していくことが目的ならば、他にも手段はあっただろう。

例えば2000年に出た「宇宙戦艦ヤマト(テレビ第1シリーズ)」のDVDは、やはり原版が35mmで、非常に美しい画質であった。ネガテレシネかポジテレシネかの記述が見つからなかったのだが、わざわざ16mmに落としてはいないと思われる。
いわゆる“パラ”と呼ばれるフィルム上のゴミなど全てが取り除かれているわけではない。しかし、シャープネス、コントラスト、色調ともにこれまでの商品よりはるかにキレイになっていた。

また、やはりwowowで放映された「新世紀エヴァンゲリオン」のニュー・マスターも美しい出来だった。
エヴァの従来のパッケージ商品はフィルムの揺れがひどく、大画面で見ていると正直酔いそうだったが、それも大幅に低減されていた。
色調がキレイになったことも、デジタルワイプなどでさんざんデモされていたので、ご覧になった方も多いと思う。

しかるにこの「ルパン三世」であるが、DVD版と比べて色調・明度・彩度など申し分なく改善されている。
パラも完璧に取り除かれ、フィルムの揺れも“全く無い”。デジタル処理で完璧に止めてある。

しかし、これがやりすぎなのだ。

フィルムの傷や揺れを取り除くため、背景画や動いてない人物など全て静止画にしてある。
すると当然ながら、フィルムの持つ粒状性が失われる。

フィルムで映像を撮影すると、まったく動かない静止画であってもフィルムの持つ粒子が見える。その粒子は一コマ一コマ異なっているため、静止画であっても時の流れや空気感が感じられる。
またフィルムの揺れも、同様に時間経過を観るものに感じさせる。

この「ハイビジョンリニューアルマスター版」が酷いのは、画面の一部を静止画扱いしていることだ。
静止した背景画の中を人物が歩くとき、人物の回りのデジタルで処理しきれない粒子が動いて見える。下手するとフィルムの変形のためか、デジタルで静止画処理してあるところから人物の首だけが浮いて歪んでいる。

ぼくには多少パラが残っていたりフィルムの揺れがあることより、不自然に粒子が動かない背景や、背景から浮かび上がった人物のほうにより大きな違和感を感じる。

だが、そのことを指摘している人をほとんど見ない。強いて言えばこちらのページの8月9日付け日記の部分くらいだ。

ぼくも以前、旧作品のアーカイブではないが、フィルムの傷消し作業などをしたことがある。しかし、傷ついたのが一部だからといって、その他の部分をどこかの一コマから持ってきて止めてしまうなどということはしなかった。今現在修復に関わっている同僚にも聞いてみたが、そんなことは決してしない。

ところが現在テレビでオンエアされているアニメ作品は、ほとんど全てがフルデジタ ルで撮影(合成)されたものだ。撮影台の上でセルをフィルムに撮影した作品は「サ ザエさん」などを除いてほとんど無い。
つまり現在のアニメ作品の視聴者は、粒状性の無い作品に目が慣れてしまっている。
だとするならば、フィルムの粒状性そのものすら、ノイズやパラ同様に画面には不要 な情報と認識している世代が育ってきていることになるのかも知れない。
そのような視聴者にとってこの「ルパン三世 HVリニューアルマスター版」は違和感 なく受け容れられているらしいのだ。


例えばDLP上映でフルデジタルで制作されたアニメを見る場合。
DLP上映では画が揺れない。揺れはフィルムの映写時に起こるものだから(厳密に 言えば他にも入る要素はある)、フィルムを介さないフルデジタル制作からDLP上 映という流れでは、揺れは原理的に入りようが無い。


「トイ・ストーリー」などディズニー配給作品の冒頭に必ず上映されるシンデレラ城 のロゴ。青バックに白いお城があり、星が飛ぶ。
このお城は画面の中で微動だにしない。
飛んだ星が無くなれば動いているものはなにもなく、時間が経過しているのかどうか すらわからない。今見ているのは動画なのか静止画なのか。

ぼくなどはこれを見て「フィルムを見てる気がしなくて気持ち悪い」と思ったのだ が、意外と知り合いは全くなんの感想も持っていなかったりする。揺れてるとか揺れ ていないとか、そもそも無頓着だ。

本来フィルムの揺れや粒子感は、無ければ無いほうが良いものだろう。
フィルムの開発者は、粒子が小さくよりシャープな映像を実現できるように努力して きた。
タテヨコに小刻みに揺れた映像は見にくさの原因であり、極力その要因を減らすよう にしてきた。
しかし、それらがフィルムの「味」になっていたこともまた確かだ。

粒状性やフィルムの揺れを取り除く方向で行われているリニューアル作業は、本当に 放映当時の姿、あるいは制作者の意図した映像を復活させているのだろうか? と疑問 に思う。(一部改稿)

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コメント

ありましたね。
もうずいぶん前になりますが
あのルパンの画の気持ち悪い細部は
時々蘇って来て、
古いアニメや映画の修正は、
しばらくはこんな感じなのかと
暗澹たる気持ちになってしまいます。
実際、実写の名のある映画でも
同様のものをよく見かけますし
やはりそれは気持ち悪いですね。

今の人は、ケータイで見るし
ユーチューブで見るし、テレビは字幕だらけだし、
しかも、お初の内容を見るので
気になる以前に、目に入らないのでしょうね。
それは見る目がないということでなく。
見方捉え方が違うというか。

件の修正済みデータを
16mm~35mmフィルムに撮影してさらにテレシネ。
あるいはミニ映画館で週一で上映。
これがおそらく一番の解決策ですが
きっとそれでも、しゃべる口の周りだけ
多めにザラザラしそうですねぇ。
そもそも、修正を行った人、アニメを作った人があれでいいと思ったのかどうかも問題でしょうねぇ。

投稿: けん某 | 2011/12/09 16:35

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